ここ数年、自宅のあるバンドンからほぼ毎週のように通っていたジャカルタ。 3月14日を最後に、そのジャカルタ通いも途絶えた。フリーランスの通訳業に、新型コロナの影響はわかりやすく現れた。手帳が真っ白になった。

 まあ当面の間、夫婦ふたりと猫2匹が生きていくくらい大丈夫。金銭的には……と、夫と言い合う。大事なのは、「健やかに」このコロナの時代を生きていくこと。

 3月の半ば当時、わが家周辺ではデング熱が猛威を振るっていた。それ以降も、新型コロナ感染者は出ないものの、デングの勢いは収まらない。このタイミングでデング熱、ダメ!ゼッタイ!ということで、大規模社会規制(PSBB)に向けて人々が生活用品や食料品の買いだめをする中、わが家は虫除けを大量に買い込んだ。

 家にこもって新型コロナウイルスをやり過ごすつもりが、蚊に襲われちゃ意味がない。敵はコロナのみにあらず。全方位の「健やか」を維持しよう。心も体も。

 心の健康のために始めたのが、農地開墾。わが家の庭の隅には、下の空き地につながる階段がある。空き地の持ち主には好きにしていいと言われているし、こんな時にいきなり売れたり、誰かが家を建て始めたりはしないだろうという読みのもと、一面に雑草が生い茂る空き地に、鎌一本で立ち向かった。もちろん、虫除けをたっぷり塗って。

空き地への道、Before

空き地への道、After

 黙々と雑草を刈り、野生化して至る所に生えているキャッサバやタロ芋をなぎ倒し掘り返し、鎌を鍬(くわ)に持ち替えて土を起こし、鍬をのこぎりに持ち替えて日照を遮る木の枝を落とし、発芽した小さな双葉を愛で、柔らかなその双葉を食べ散らかすカタツムリに怒り、ぐんぐん伸びるカボチャの苗を直植えするべくカボチャ用地の雑草を、またひたすら刈っていく。

カボチャ用地、Before

カボチャ用地、After

 ほかに優先されることがある日以外はほぼ毎日、午前中の2〜3時間は下の空き地であれこれやっている。陽射しを浴びること、体を動かすこと、デジタルデトックス、目の前のタスク(雑草刈り)に無心で取り組むこと。これらは今のところ、心の健康にかなり効いている。

 開墾した農地からの収穫が楽しみな気持も、もちろんあるが、たとえ大した収穫が得られなかったとしても、たぶん私は気にせず草を刈り続ける気がする。

農地のAfter(Beforeはトップ写真)

 それから、もちろん体の健康も。体の健康は日々のご飯から、というのが私の揺るぎない信念である。かつ、幸いにして、料理は大好きである。ということで、時間があるのをいいことに、思いつくままにいろいろ作っては食べている。これがまた楽しい。

 毎日、何を食べるかばかり考えているし、作りたいものが尽きる気配もない。旅行で訪れた南インドで習った料理を復習したり、最近お気に入りの中国人ユーチューバーのレシピ(言っていることはわからないけど映像で判断)をまねしたり、麺を打ってみたり、合間にマルタバをオーダーしてみたり(ジャンクフードは心の栄養)。そして、農地開墾の副産物として採れるあれこれを料理してみたり。

 バナナのつぼみと、パパイヤの花と、キャッサバの葉が採れた日があった。早々に草刈りを切り上げ、バナナのつぼみを剥(む)き、パパイヤの花とキャッサバの葉を下ゆでし、調理して昼食とした。

(右上から時計回りに)バナナのつぼみ、パパイヤの花、キャッサバの葉、キャッサバ芋

バナナの花をむいたところ

 バナナのつぼみにしろ、パパイヤの花にしろ、灰汁(あく)が強いために下処理に手がかかる。けれど、時間だけはたっぷりあるのだからと、むしろその手間が楽しさになったりする。

 そうして出来上がった料理は、味付けがどうこうだけではないおいしさだった。自分で採ってきた新鮮な食材を、そのまま料理していただくという、このシンプルにしてぜいたくなこと。それは、この家ごもり生活を送っているからこそ味わえたおいしさだと思う。

右上がパパイヤの花、キャッサバの葉、バナナのつぼみの炒め物、左下がバナナのつぼみとプテ豆の和え物

 3月14日以降、数えるほどしか外出をしていないが、閉塞感はまったく感じずにいる。空き地に、私は心身ともに支えられている。カボチャ用地でカボチャが採れて、それを調理したら、またきっと幸福な気持になるだろうなと思う。そして同時に、カボチャが採れるそのころには、また自由に外を出歩き、あの緑の谷を越える列車でジャカルタに通う日々が戻ることを願っている。

 

西宮奈央(にしみや・なお)
2004年よりインドネシア在住。ジャカルタでの日系企業勤務を経て現在はフリーの通訳。業務スケジュールの合間を見つけてはインドネシア各地へ旅をするのがライフワーク。ただいま、スケジュールが空っぽな上に旅行にも行けない外出自粛ジレンマで「これが終わったら行く所リスト」が伸び続けている。

 

西宮奈央さんのMASAK KIRA-KIRA バックナンバー
#1 イチゴとクマンギのシャーベット
#2 ココナッツ・レモン・チキン
#3 ソムタム2種
#4 パン粉のスープ
#5 花椒風味の中華風チキン
#6 キャロット・ジンジャー・ケーキ
#7 タンドリー風の焼き魚
#8 桜色のビーツのペスト
#9 チェコ風ジャガ芋のパンケーキ
#10 ナツメヤシのトリュフ
#11 ラープ
#12  キャッサバとココナッツの焼き菓子
#13 3色のスープ
#14 アボン・イカン
#15 イカン・カンジョリ
#16 トウガラシのジャム
#17 カリフラワーのスパイシー・フリッター
#18 ベトナム風蒸し鶏とスープ(フォー・ガー)

 

【インドネシア居残り交換日記】 
DAY 1 賀集由美子(チレボン) 2020年4月28日 怒濤の「2コマ漫画」マスク作り

DAY 2 横山裕一(ジャカルタ) 2020年4月6日 マスク越しの会話

DAY 3 西川知子(ジャカルタ) 2020年4月19日 とある休日

DAY 4 成瀬潔(バリ) 2020年4月25日 嵐が過ぎるまで

DAY 5 成瀬潔(バリ) 2020年4月26日 飼育係

DAY 6 ダグソト(ジャカルタ) 2020年4月29日 会社にヒョウが出た!

DAY 8 池田華子(ジャカルタ) 2020年4月6日 ジャワの農村バティック

DAY 9 池田華子(ジャカルタ) 2020年4月9日 子猫を拾った

DAY 10 岸美咲(ソロ) 2020年5月10日 ジャワの芸術家のエネルギー

DAY 11 松下哲也(東ヌサトゥンガラ・アドナラ島) 2020年5月10日 日曜の釣り

DAY 12 名取敬(ジャカルタ) 2020年4月某日 任天堂タイム

DAY 13 岡本みどり(ロンボク) 2020年5月10日 断食月の食事

DAY 14 賀集由美子(チレボン) 2020年5月11日 PSBB下でのバティック製作

DAY 15 武部洋子(ジャカルタ) 2020年5月19日 母は日記を書く

DAY 16 西宮奈央(バンドン) 2020年5月13日  バナナチャレンジ

DAY 17 轟英明(チカラン) 2020年3月15日〜5月24日 新しい日常

DAY 18 名取敬(ジャカルタ) 2020年4月某日 酒とテレビと囲碁タイム

DAY 19 松下哲也(東ヌサトゥンガラ・アドナラ島) 2020年5月24日~29日 魚づくしごはん